追憶の心
(平成21年)
谷垣 泰三
写真集「やすくにの祈り」(産経新聞)のはしがきは江藤淳の文章である。そこで江藤は次のことを言ってゐる。
『生者だけが物理的に風景を認識するのではない。その風景を同時に死者が見ている。そういう死者の魂と生者の魂との行き交いがあって、初めてこの日本という国土、文化、伝統が成立している。つまり、死者のことを考えなくなってしまえば、日本の文化は滅びてしまう。』
また、次のやうにも言ってゐる。
『生者が生者として生き生きと生活するためには、死者のことを常に考えていなければならない。』
この「死者のことを常に考えてゐなければならない」は分かり易く言ふと「何百年経たうが、亡くなった人を絶対に忘れるな」と言ふことである。
私は忘れるのは許せるが、無視は許せないと思ってゐる。
平成12年以来、年一度であるが私が金沢を訪れるのは、追悼のまことを捧げるためである。
そして、これはひとえに大碑のおかげである、と感謝しながら帰途に就くのである。