是を是とし、非を非とする心
(三枝万祐後援会会報「まゆはな」より)
(平成24年)

歌手、劇団「結い座」主宰
三枝 万祐


拝啓 晩夏の候。
皆様に於かれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。日頃はご支援ご協力を賜り有難うございます。

昨年は北から南へ、東から西へと走り廻った一年でした。各地で様々な方々との御縁を賜り、色々と学ばせて頂きました。ふり返り、改めて感じ思う事があります。一つは、「人の心は移ろい易く頼りないものである」ということ。しかし、その頼りないものでも、心底から信頼し合い、強い絆で結ばれた時は、「強く頼りになる」という事です。

そして、もう一つは、「是を是とし、非を非とする心が失われつつある」という事です。しかも、一般人のみならず、教育関係者ですらその心が無くなっている事に愕然とします。

最近、滋賀県大津市で起きた「いじめによる自殺事件」。事態が大きくなり、マスコミが取り上げなければ、「事無かれ主義」というのは、大津市だけの問題ではありません。
私の活動の一つとして行っている子供達との芝居創りの現場でも教育関係者や親御さん達にその事を感じました。

昨年、「命どぅ宝」那覇公演を行いましたが、その芝居の稽古中に盗難事件が起きました。被害者はプロの女優二人。日を別にして、一回目は財布よりお金が抜き取られ、二回目は鞄の底に入れてあった財布を丸ごと。密室内なので警察からも「関係者の可能性が高い」と言われました。本番間近だった為、講演終了まで伏せ、無事終了した後警察へも正式に盗難届を提出。そして、今回の芝居関係者全員にその旨を連絡しました。「目撃した人等、連絡を頂きたい。場合によっては事情聴取等も発生する」と伝えました。

その結果、あるお子さんが、ご両親と共に「盗んでしまった」と謝りに来てくれました。勇気を持って謝りに来てくれた事は嬉しく、「もう二度としない」という約束をして、この事は私だけの胸に秘めておくと約束し、警察へも関係者へも、「当事者が謝りに来てくれて解決した」と伝え、ご心配、ご迷惑を掛け、不愉快な思いをさせたことを謝罪したメールを送りました。そして、盗んだのが誰か分かり、イジメなどに繋がるのを心配したので、盗んだ人物が大人とも子供ともいっさい知らせず、「勝手ですが、勇気を持って自分から名乗り出てくれたので、この事は不問にして下さい。」とお願いしました。

しかし、一部の親御さんから苦情を頂き、それから二ヶ月後、再び仕事で那覇を訪れた折に、その親御さん達より謝罪を求められました。そして、一人のお母さんが対馬丸記念会役員の方一人と、教育委員会の方一人を伴い、三名で沖縄後援会事務所へと来られ、後援会長と理事二人が同席の中、私共に「非はすべて劇団側にある」と言われました。「もし、盗んだのが子供だったなら、稽古場に財布を持ってきて管理を怠り、子供の出来心を誘うような事をした責任があるから、ちゃんと謝罪せよ」との事でした。このお母さんは事件当事者のお子さんとは全く関係のない方でしたが、「皆さんの意見を代表して話している」と仰っていました。

しかし、他の親御さん達からは「事件が解決して嬉しい」「沖縄で又、芝居をやって下さい」等々、沢山の連絡を頂いています。だから、“一部の意見”でしかないのです。
なのに、対馬丸の役員さんも同調され、教育委員会の方は終始無言でした。六月から始めた稽古で盗難事件は九月の本番直前。「管理不十分、財布を持って来るな」と言う事は、「子供さん達を疑え」と言っているのと同じです。この三ヶ月で信頼関係が生まれていると信じるからこそ本番を迎えられるのです。だからこそ、最終的には盗んだ事を謝りに来てくれたのだと思っています。

又、もし、私共の管理不十分であったとしても、「道に財布が落ちていても拾ったら警察に届けなさい」と教えるのが教育であるのに、一人のお母さんが言っていることならまだしも、「教育委員会」という立場に居る人が、「是を是とし、非を非とする」判断をしっかり持たず、“事なかれ主義”を通し、“ウルサイPTA”には同意しておく・・・。その現状にあきれました。

そして、大津市の事件。結局、“取り返しのつかない事件”となってしまってからでは遅いのに、そうならないと「非を非とする」ことが出来ない今の教育を、私ももう一度「子供達との芝居創り」を通して、又、「自分の舞台」を通して考え直し、少しでも良い方向へと進んでいきたく思っています。

私の活動をご支援下さっている皆様と、今後も信頼の絆を深めて、「何が正しいか」を確かめ合いながら、「誠の道」を一歩一歩、歩んで参りたく思います。今後共、よろしくお願い致します。
皆様のご多幸、ご健康を心よりお祈り申し上げます。  敬具

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