アメリカの非道に対する怒りを刻もう
(平成14年)

足羽 雄郎

先日、池袋のサンシャイン・ビルに行く用事があった。その西北側にある公園に入ったところで、何かを探している一人の外国人を見たので、一寸話しかけてみた。何と、元処刑場を探しているところだというので、すぐ、現場に案内した。この人はアメリカ人で名をウェン・コーエンといい、職業は詩人ということだった。ハイスクール時代、Pacific War(太平洋戦争)に於いて、日本が一方的な侵略国だと教えられ、自分でもそのように信じていたが、大学に入って、図書館でたまたまチャールズ・ビアード博士の『ルーズベルトと第二次世界大戦』を見つけ、読んだところ、目を覚まされた由である。ルーズベルト大統領が勝手に戦争を仕組み、日本に押し付けたことを知り、仰天の思いであったと、件のアメリカ人は語ってくれた。

彼は語を続けて、「アメリカが無実な日本の指導者を処刑してしまったことに対し、一アメリカ人として心より日本人に詫び、日本に行ったら、是非とも処刑場を訪れ、処刑された人々の霊に詫びたいと思っていたが、今日それが実現出来て、大任を果たした思いである」と云い、私の方を向いて、ここの記念碑の碑文について説明を求めた。碑の前面には、「永久平和を願って」という一文が刻まれており、その後ろには、極東国際軍事裁判で有罪の判決を受けた人々の処刑の一部が執行された旨のことが書かれている。私が英訳しながら、碑文について説明したところ、彼は呆然として、「独立国日本がいつまでもアメリカに遠慮し、かくの如き卑屈な碑文を後生に残すなんて全く恥ずかしいことではないだろうか。私が日本人ならこう書きたい」といって、その場で次のような詩を書いてくれた。

Oh,America!Thou perverted the law and trampled down justice. 
George Washington and Abraham Lincoln, now in the nether world,weep at thy injustice,
(ああアメリカよ、汝は法を曲げ、正義を踏みにじった。ジョージ・ワシントン、アブラハム・リンカーン、今や黄泉にて汝の非道に涙す)

私はこのアメリカ人の良心に感動したと同時に、高千穂商科大学元教授の名越二荒之助先生が「アメリカはワシントンの精神に帰るべし」との一文を発表されていたことを想起し、大変興味深く思った。

アメリカ人の中には随分無教養で傲慢な輩が多いが、同時に感心するほど公正にして良心的な人も多い。件のアメリカ人なんかも恐らくこの一人だろう。かかるアメリカ人がいるかぎり、アメリカはやはり健全な国だと思わざるを得ない。東京裁判に対する批判も日本人の中からは少なく、むしろアメリカあたりでよく聞かれるということも尤もな気がする。

アメリカの非道に対し日本民族の怒りを伝え、アメリカの反省を求める形で碑文は書くべきだと市井のアメリカ人に教えられた次第である。

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